災害時に派遣される自衛官・されない自衛官の基準は?(OBが解説)
2022/12/26
東日本大震災の際には、千年に一度ともいわれる未曾有の大震災に自衛隊は総勢力の約半数となる10万人を超える自衛官を災害派遣しました。
発災当初から、あれだけの被災地の衝撃映像が何度も目に飛び込んできていましたし、…一刻も早く被災地へ!被災された皆様はもちろん国民の多くがそう願っていたに違いありません。
中央からは極めて早い段階から大規模震災災害派遣命令が発せられ、各方面隊の防衛・警備区域を越えて全国から被災地へ自衛隊が集中する根拠が明示されました。
この未曽有の大災害に際し、自衛隊の有する力を効果的に運用する。被災地への迅速な隊力の集中に一片の疑義もありませんでした。
ただ、当時現役自衛官であった私には、正直発災当初から10万?…数字だけが一人歩きしているんじゃないの?…大丈夫か?一瞬、違和感が頭をよぎったのは事実です。
いうまでもなく「我が国の防衛」を主たる任務とする自衛隊は、いついかなる状況にあっても主たる任務を全うしなければなりません。
貴重な10万人の自衛官が被災地に派遣されるわけですから、日本の対外的な防衛力は、端的にいえばいつもの半数ですから誰が考えても極端に手薄になるわけです。
我が国が大規模な震災で混乱している状況に付け込んで他国が攻め入るような事態が生起した場合においても、まずは残りの派遣されていない自衛官が主たる任務である「わが国の防衛」を毅然として遂行しなければなりません。…想定外でした…申し訳ありません。…では通用しないわけですから。
…発災当初からの10万人派遣!?…某政権の単なる政治的パフォーマンスでなかったことを心から願いながら、今回は、災害時に派遣される自衛官・されない自衛官の基準は?と題して大きく2つの観点から自衛官OBが解説させていただきます。
主たる任務と従たる任務の観点からの考察…
冒頭にも若干述べさせていただきましたが、自衛隊法3条で規定されている自衛隊の任務には…
自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持にあたるものとする。
とあります。
災害派遣は、従たる任務として必要に応じて行われる公共の秩序の維持の範疇に位置付けられており、自治体や警察・消防などの能力では対処困難な事態に自衛隊が部隊を派遣し救助活動や予防活動などの救援活動を行うことです。
主たる任務と従たる任務の観点から整理すると、災害時に派遣される自衛官は、従たる任務として必要に応じて行われる公共の秩序の維持の一環で自治体や警察・消防などの能力では対処困難な事態に救助活動や予防活動などの救援活動にあたることを命ぜられた者です。
一方、派遣されない自衛官は、いわば主たる任務として我が国を防衛するためにいざとなったら直ちに防衛出動できるように準備している他、従たる任務として位置づけられている他の活動が命ぜられた場合にも直ちにこれにあたれるように準備している者といえますよね。
こう考えると、災害時に派遣される自衛官が、派遣されない自衛官より使命感が高いからとか、より強く熱望したからとか、体力的に優れているからとか、忍耐力が優れているからとか、年齢的にどう…といった基準は一概には当てはまりません。
東日本大震災の時は、10万人以上の自衛官が災害派遣されましたが、むしろ約半数の10万人以上の自衛官が災害派遣されておらず、我が国の防衛という主たる任務への対応を含め、じ後予期される各種事態対応等のための予備として控置されていたわけです。
当時私が勤務していた近傍の駐屯地では、外柵沿いをランニングしていたり、課程教育の履修前教育で駆け足や訓練を行っていたところ、「東北地方での被災地では、10万人を超える自衛官が派遣され活躍しているのに、この駐屯地にとどまって駆け足や訓練をやっているとは何事か!直ちに被災地へ赴け!」…といった趣旨の苦情の投書や電話がありました。
こういう事実を知り、忸怩たる思いを抱きつつも私が勤務していた駐屯地では、駆け足のコースや訓練場所を外柵沿いからはずすなど対外的な配慮を行ったりしていました。
災害派遣されていない自衛官は、自らの使命感や意志や希望にかかわらず、時にはこうした忸怩たる思いを抱きながらも命ぜられた任務(我が国の防衛という主たる任務への対応を含め、じ後予期される各種事態対応等のための予備隊力として控置される任務)を遂行しなければならなかったわけです。
当時私が勤務していた部隊は、任務の特性上、ピーク時部隊全体の15%程度が東日本大震災の災害派遣に従事していましたが、災害派遣されない自衛官は、何とかして何らかの形で被災地への貢献をと…強い派遣意志を持った隊員がほとんどでした。
自衛隊の任務は、我が国を防衛するという主たる任務と、災害派遣等のように必要に応じて行う公共の秩序の維持であったり、国際平和協力業務等のように主たる任務に支障を及ぼさない範囲で行う従たる任務があります…これら両方を合わせた任務が自衛隊の本来任務であるということを国民の皆様には理解してもらいたいと思っています。
この事に今一度深いご理解を戴いた上で、改めて災害時に派遣される自衛官、派遣されない自衛官の基準…に思いを致して戴きたいと思います。
部隊指揮運用上の観点からの派遣基準は…?
自衛隊は、大規模災害を含む各種の災害に迅速かつ的確に対応するために災害派遣計画を策定したり、自衛隊の統合防災演習などの訓練をはじめとし、自治体が行う防災訓練には地域の防衛・警備・災害派遣を担当する部隊レベルに至るまで積極的に参加して対応能力の維持向上を図っています。
自衛隊が対応する災害派遣は、最近の10年をみると概ね年間500~600件です。全国のいづれかの地域で毎日平均1〜2件派遣されていることになるわけです。
内容的には①東日本大震災等の大規模災害への対応、②風水害等の自然災害への対応、そして③災害派遣総数の大半を占める離島などでの緊急患者の輸送や④消火活動などに区分されます。
特徴的なのは③と④で400件以上、実に全体件数の8割以上にも上るということです。
災害派遣を命ぜられた部隊指揮官は、与えられた任務を最も効果的に達成するため、上級部隊等と連携を図りながら自らも被災地等活動現場の状況を積極的に収集し、我が部隊の状況を踏まえつつ状況の推移を見据えて適切な時期・場所に適切な人員、装備を派遣します。
この際、指揮官は指揮運用上、派遣される自衛官を以下の基準で決定しますよ!
①平素からの被災地域との繋がりが深い部隊を選定する。
これは、警備隊区を担任している部隊では平素からの計画で決まっていることがほとんどです。通常、被災地の自治体と訓練等を通じface to faceの関係が構築されている部隊を派遣することになりますね。
東日本大震災当時私が勤務していた部隊は、警備隊区を与えられていませんでしたので、方面警備区で発生する災害派遣の際の総予備的任務を予期しつつ、東日本大震災に一部の部隊を派遣していました。方面警備区の予備的任務では一時期、ある地域の給水支援任務が付与されましたのでその際は、この点に留意しました。
②部隊建制を保持した派遣部隊編成を追及する。
災害派遣においては、任務に応じて様々な規模の派遣があります。専門を有する任務や増強幕僚派遣のように個人派遣に近いものもありますが、基本的にはチーム、組織として派遣されることがほとんどです。
派遣部隊の編成にあたっては、通常「各中隊から何名かづつ差出し、長は誰々…」というような作業指示的な部隊編成はしません。もちろん状況にもよるわけですが、与えられた任務を確実に遂行させるためには…平素からの計画等で派遣地域との関係が構築されてない場合は、難しい任務と予測されるほど最も信頼する…「〇〇中隊をもって…」編成します。
自衛隊は、平素から国防の任務のため厳しい訓練を固有の部隊編成をもって積み上げています。○○中隊長を核心として、いついかなる状況でも任務を達成できるよう精強な部隊を錬成しているわけですから…災害派遣においても考え方は同じです。
③派遣される自衛官の事情を考慮する。
皆さんお解りのように、①、②の順番でまずは災害時に派遣される部隊を決定します。しかし部隊固有の任務特性や、派遣する任務の特性によっては、全員を派遣できない場合が必ず生起するわけです。そういう場合は、派遣される自衛官の事情を考慮することになります。
東日本大震災における原子力災害派遣ではヘリコプターから原子炉への冷却水の投下という…あの極めて印象的で特殊な任務遂行がありました。
この時指揮官は、隊員に希望を取ったそうです。そうすると全員が手を挙げる…そうなんですよ、私の勤務した部隊もそうでした。
任務の特殊性、厳しさは全く異なるものでしたが…やはり全員が希望するんですよ。
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④最後は、指揮官が自らの信念(人生哲学)により決断する!
最終的には、平素から訓練、服務を通じ最も隊員の身(心)情を把握している指揮官が自らの信念いわば…人生哲学により決断するんですよ。
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…以上、今回は、災害時に派遣される自衛官・されない自衛官の基準は?でした。
皆さん如何だったでしょうか?それではまた…。