自衛隊と9条…隊員とその家族親族はどう思っているのか?(生の声)

      2020/03/20

「自衛隊が違憲かもしれないという議論の余地をなくすべきだ…」「私たちは憲法に自衛隊を明記する事を公約に掲げています…。」

自衛隊の憲法への明文化に向けて真摯かつ前向きな姿勢を打ち出している自衛隊最高指揮官安倍内閣総理大臣に衷心より敬意を表したい。

今回は、自衛隊と9条…現場で汗を流している隊員とその家族親族はどう思っているのか?…OBとして現役の立場では言いにくい事も含めて述べさせて頂きたいと思います。

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命より重い使命感をもって任務を遂行する“日陰者”…自衛隊員…の名誉と処遇に特別の配慮を!

「…君たちは自衛官在職中、決して国民から感謝されたり、歓迎されることもなく自衛隊を終えるかもしれない。ご苦労なことだと思う。しかし、自衛隊が国民から歓迎され、ちやほやされる事態とは、外国から攻撃されて国家存亡の危機の時か、災害派遣の時とか、国民が困窮している時だけなのだ。

言葉を変えれば、君たちが“日陰者”である時の方が、国民や日本は幸せなのだ。一生御苦労なことだと思うが、国家のために忍び耐えてもらいたい。頑張ってくれ。君たちの双肩にかかっているんだ。しっかり頼むよ。…」

これは、防大1期生に対する吉田茂内閣総理大臣の遺訓です。…“日陰者”として将来の自衛隊の現場を担う自衛官に対する実に愛を感ずるお言葉ではありませんか。

当時の政治情勢から憲法改正が厳しくなり将来的に憲法における自衛隊の位置づけに議論を残すことになったことに対する申し訳なさも滲み出ているように私は感じます。

 

自衛官は、一般の公務員、警察官や消防官とも異なる服務の宣誓を行って入隊しています。

                                     服 務 の 宣 誓

私は、我が国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法 及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身を鍛え、技能を磨き、政治的活動に関与せず、強い責任感をもつて専心職務の遂行に当たり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います。

国家の命令があれば、如何なる任務にも粛々と応じこれを遂行して国民の負託に応えるわけです。

「…生命は、地球より重いと言われるこの現代の風潮の中で、その地球よりも重い命よりもっと重い使命感というものがあったということをまざまざと見て、熱いものがこみあげてまいりました。

自衛隊は、いざというときに、死を賭してやってくれるものだということを、市民はしっかりと見届けたのであります。

自衛隊の真骨頂を見る思いでした…」

…これは平成7年12月16日 高田長崎県知事の雲仙普賢岳災害派遣の撤収セレモニーでのお言葉です。

私は現役時にこのセレモニーに参加した1人ですが、この言葉に感動し全身に電気が走ったのを鮮明に覚えています。こういう視点で我々を見てくれている人たちがいるのだ…精進せねばと心に誓った瞬間でもありました。

自衛隊員は、地球より重い命よりも重い“使命感”にうち動かされ厳しい任務に立ち向かいます。その使命感は、何処から生まれてくるのか…。

自衛隊員自身が、まずは家族親族そして郷土、ひいては国家、国民からの心の底からの理解と信頼、深い愛情を感じ取った時に他ならないと私は思うのです。

日陰者を自覚しつつも、国家防衛という崇高な使命を胸中に命をも賭して粛々と任務を遂行する自衛隊員…国家、国民からの理解と信頼、深い愛情の証しとなるような、それらに見合う特別な名誉と処遇があたえられるのは当然のことではないでしょうか。

 

 

特別に配慮すべき名誉と処遇はこれだ!

①最大の名誉付与…それは憲法に自衛隊を明確に位置づけること

自衛隊は、実質的には国防の任に当たる武力組織と認識されながらも、現行憲法上に明文規定はありません。

このような憲法上の不確かな位置づけゆえに、過去には税金泥棒と罵られ、制服で外出するのも憚れるような国内情勢にあっても、自衛隊員は、黙々と任務に勤しみ何れ多くの国民に認知される日が来ることを信じ続けてきました。

そのような愚直なまでの努力の甲斐もあり、今や、国際的にも自衛隊が行う国際平和協力に係る活動は高い評価を受け、国内的にも自衛隊を軍事組織と認知し、その必要性に対して疑念を呈されることは以前に比してたしかに少なくなってきたように思います。

ご案内の通り、自衛隊は、9条の解釈により合憲であるとされています。

それでもなお、世論調査では7割が合憲と回答する一方で、2割強が違憲だと答えています。

内閣府の調査では、9割が自衛隊を評価している中で、国民の一定数が憲法9条と自衛隊の存在の整合性に納得しておらず、違憲論が依然根を張っているのが偽らざる現状です。

日陰者であったとしても国家防衛という崇高な使命を胸中に死をも賭して任務に邁進する自衛隊員をこんな宙ぶらりんな現状で65年にもわたり放置し続けて良いのでしょうか?

国家、国民は、こんな愚直な自衛隊員をいつまで蔑ろにしたら気が済むのでしょうか?

ここまで議論を避けてきたのは国家、国民の怠慢といっても過言ではないでしょう。心の底からの理解と信頼、深い愛情をもうそろそろ本気に自衛隊員に与えてくれないものでしょうか。

一昨年になりますでしょうか、安倍首相は、「憲法に自衛隊をしっかりと明記し、違憲論争に終止符を…」との見解を表明しました。

これに対してコメントを求められた当時の制服トップ河野統幕長は「憲法という非常に高度な政治的問題なので、統幕長という立場から申し上げるのは適当ではない」とした上で「一自衛官として申し上げるなら、自衛隊の根拠規定が憲法に明記されることになれば、非常にありがたいと思う」と述べられました。

まさに一自衛官としての生の声が聞けたわけです。

OBの私でさえもこれを聞いて何かこう…救われたような気分になりましたし、時代は大きく変わってきていることを実感した瞬間でした…。

現在の政治状況からしても、国家・国民として違憲という議論の余地が無くなるよう自衛隊を憲法9条に明記すべきはまさに今をもって他にはありません!明記することこそが自衛隊員にとって最大の名誉であると私は強く思います。
自衛隊員は、これによって間違いなく士気を高くし、使命感を益々醸成し、命を賭して任務達成に邁進する原動力足り得ると心の底から信じて疑いません。

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②軍法と軍法会議の不在する司法制度を見直すこと

自衛隊を国家として「軍隊」と正式に位置付けるのであれば、 軍法や軍法会議などの司法制度の整備をも合わせ行う必要が有ります。

現在の自衛隊に関する司法制度には、実力組織軍法と軍法会議等が存在しません。それにに伴う弊害は、平時においても実例があるのです。

平成20年2月、海上自衛隊のイージス艦「あたご」が千葉県の野島崎沖で漁船と衝突する事故が発生しました。この際、業務上過失致死罪などで起訴されたのは、当直だった水雷長と航海長でした。2人は最終的に無罪判決が確定しましたが、当時就寝中のあたご艦長は自衛隊法に基づく懲戒処分を受けたものの起訴されることはなかったのです。

米軍で同じような事故が発生すればどうなるのでしょうか?

平成13年2月、愛媛県立宇和島水産高校の実習船えひめ丸が米原子力潜水艦に衝突され9人が死亡した事故では、原潜艦長らが査問会議にかけられ、名誉除隊に追い込まれました。

指揮官が責任を負うのが、軍事組織の常識なのです。

元海将の伊藤俊幸さんは「艦長が何ら罪を問われない状態は軍事組織としてはありえない…いざというときに責任を取れない艦長に、なぜ偉そうに命令されなければならないのか、ということになる…」と指摘しています。

…全く同感です!

イラク人道復興支援活動や海賊対処活動など、これまで自衛隊が初めてとなる活動を行う際、軍法会議の必要性は関係者の間で意識されてきましたが、実際に設置に向けた動きが具体化したことはありません。

壁となっているのは、特別裁判所の設置を禁じる憲法76条2項の存在です。安保法制が整備されても、未だ司法制度に関しては「戦う組織」としての体制が伴っていないのが実態なんです。

 

③遺族等に対する支援…賞じゅつ金を更に充実させること

隊員が、一身の危険を顧みることなく職務を遂行し、そのため死亡し、又は障害の状態となった時は、功労の程度に応じ、賞じゅつ金を授与することができるとされています。

賞じゅつ金等については、自衛隊の海外派遣の増大に応じて、特別ほう賞が制定され、授与対象となる海外派遣の対象が拡大され、金額も改善されてきました。5千万から6千万、そして9千万円になりました。内閣総理大臣から最高額1千万円の特別ほう賞金も授与されます。

従前から、警察や消防は地方公務員であるため、国からだけでなく都道府県や市町村からも賞じゅつ金が授与され、それらを合わせると最高授与額が9000万円になる場合があり、その当時の自衛官に対する賞じゅつ金が少なすぎるのではとの議論があり、改善されてきました。

然しながら、最高授与額が同等の9千万円になる場合があるとは云え、授与される場合が限定的ですから、明らかに均衡を欠いているといえます。是非ともこれは検討して頂きたいものです。

私が地本勤務時代から交流があり、保険のコンサルタントの仕事をされている自衛官のお子さんを持つお母さん(自衛官の募集相談員もされておられます)にこのお話をすると、このお母さんでもご存知なかったようで、現職の隊員やご家族はみんなこの事を知っているんでしょうか…と驚いておられました。

自衛官が後顧の憂いなく任務に邁進できるように、ご遺族に対する金銭的な支援が賞じゅつ金であるとすれば、格段の配慮がなされて然るべきではないでしょうか。

少し観点が異なりますが、自衛官が戦死(殉職)した場合には、どのように国家として顕彰するのか、祀るのかも大変気になるところです…。

 

…自衛隊は、国際的には軍隊と見做されても、国内的には一行政機関に過ぎず、処遇等は全て公務員に準じざるを得ません。列国と同等の軍隊としての特別の礼遇等を行う訳にはいかないのが現実です。やはりこれは、自衛隊を国家として如何なる地位に位置付けるかが根本にあると私は思います。

現在の政治状況下でこそ、これまで避けてきた自衛隊と9条についてしっかりと議論していただき、自衛隊員が憂いなく命を賭して任務にまい進できるよう、その責務に応ずる名誉、処遇がしっかりと整備されることを願ってやみません。

…以上、今回は自衛隊と9条…隊員とその家族親族はどう思っているのか?でした。それではまた…。

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